あなたの隣のシネフィルちゃん

映画について語っていきます。

『13日の金曜日』(1980)監督・ショーン・S・カニンガム

1958年のクリスタル湖キャンプ。何者かの一人称視点で始まる。視線の先には情事にふける男女が。何者かが気付かれぬよう背後から近づいて惨殺…。時は流れて1980年。クリスタルレイク指導員候補生たちがクリスタル湖キャンプの再開準備のためにやってきた。その道中「あそこは呪われた土地だ」という忠告をするなぞのおっさんに出会すものの、指導員候補生たちは聞く耳を持たずサマーキャンプを満喫する。しかし若者たちは何者かによって次から次へ惨殺されていく。

犯人は男性である。そうミスリードさせようとする演出が随所に見られる。たとえば、殺人鬼の足元を写した際に靴がみえて、その靴がゴツゴツとしたいかにも男性用と思わしき靴なのだ。同時に大きめの黒いズボンも履いていて女性とは思えない。さらに顔面めがけて斧をたたき込むといった荒技は如何にも力技という感じで男を連想する。度々写る手もゴツゴツしている。こうした演出の妙もあって観客は再三述べている通り犯人=男性と思いこむ。そしていざ殺人鬼が全身をあらわにして登場すると女性なので衝撃を受けてしまう。すなわちどんでん返しなのである。とはいえ近年の観客からすると犯人がジェイソンでないことに衝撃を受けるかもしれない。肝心のジェイソンは終盤の夢に登場するのみであり、それもものの数秒。ジェイソンの本格始動はPART2まで待たねばならない。ちなみにホッケーマスクを被るのはPART3からである。

またスプラッターシーンは意外にも抑え気味。昨今のスラッシャー映画の過激さと比較すると、優等生という趣すらある。それでもショックシーンは凝っていて、たとえざ第三者の視点かつワンショットで殺すので、フェイク感は消えて、今まさにその殺人現場に居合わせているかのような感覚を覚えさせる。

ラスト。ジェイソンの母の首をはねてなんとか生きのびたファイナルガールは、ボートに乗って湖へ逃げる。そこに甘美かつ幻惑的なメロディーがかぶさって、幻想的な雰囲気を醸しだす。ボートで湖を漂いながら一夜を明かした。目を覚ますと、まばゆいばかりの太陽が顔を出している。すると水面下から突然ジェイソンが飛びだして彼女に襲いかかる。抵抗虚しく湖へ引きずり込まれてしまう。しかしそれは夢であった。彼女は病院のベッドの上である。このラストは『キャリー』(76)の墓場から突然手の飛びだす場面の剽窃かもしれないし、あるいは『脱出』(72)の水辺から出現する手かもしれない。両方参考にしたという可能性もある。とはいえ生きのびたこの彼女はPART2のオープニングであっさり殺害されてしまうのだが…。(無能)