あなたの隣のシネフィルちゃん

映画について語っていきます。

『エブリシング・マスト・ゴー』

セールスマンのニックは社会人かつ妻帯者でありながらアルコール中毒に陥っていた。それだけならまだよかったものの、酒に酔っ払って問題を起こしてしまい16年も勤めていた会社を解雇されてしまう。失意の中帰宅すると自身の所有物はすべて庭に放り出され家の鍵も変えられていて妻まで出て行ってしまっていた。どん底ニックの運命やいかに。

レイモンド・カーヴァーの短編小説『ダンスしないか?』に基づくドラマ映画。正直に白状するとこの原作は未読なので映画と原作の違いなどの比較はできない。

主演は『サタデー・ナイト・ライブ』日本では『俺たちフィギュアスケーター』に出演し有名となったコメディアン、ウィル・フェレル。したがって、コメディを期待する方もいるかもしれない。だが本作はあくまでドラマ寄り。笑いを期待すると悪い意味で裏切られてしまうかもしれないので、注意が必要だ。

さてこの映画の魅力はやはりなにをおいてもウィル・フェレルにある。ウィル・フェレルといえば先述のとおりコメディアンである。なので当然のように漫画のように誇張された演技で観客の笑いを優先しそうだが、今回はそれを抑えてシリアスな演技を披露している。しばしばコメディアンがシリアスな演技に挑戦して新しい側面を見せることもある(その代表はある人にとっては『パンチドランク・ラブ』のアダム・サンドラー。あるいはジム・キャリートゥルーマン・ショー』)が、元々ウィル・フェレルは演技力のある俳優だ。それは『主人公は僕だった』や『メリンダとメリンダ』によって証明されている。といってもこの二作はコメディテイストのある映画なので、彼にとってはまだお家芸であったはずであり、枠組みからはみ出していたとは言えない。しかし本作では違った。映画の真面目なトーンに合致するようアルコール中毒のダメ中年が一人立ちできるまでの姿を不用意にふざける事なく演じてみせる。この演技によって彼は俳優としての道を新たに開拓したのではないかと思う。

なお日本ではDVDや配信などは一切されていないため、鑑賞はかなり難しいが、英語を熟知している方は是非ともなんとかして見てほしい。その価値はあるのだから。(無能)