あなたの隣のシネフィルちゃん

映画について語っていきます。

『バイス』

‪アラームが部屋中にけたたましく鳴り響き、人々が廊下を走る、テレビ画面には燃える世界貿易センタービルアメリカ人ならだれもが慌てふためく光景だ。だが副大統領のディック・チェイニーはちがった。チャンスを見出していたのだ。権力の強化というチャンスを。‬

‪この映画は酒浸りのろくでなしディック・チェイニーアメリカ副大統領の座につき権力を振るう男になるまでの物語である。‬

ディック・チェイニーの物語全体を通して先ず思った事は、彼に理念らしい理念はなく、ただ妻のために権力を維持したいだけ、ということだ。劇中、チェイニーは上司のドナルド・ラムズウェルドに「政治理念は?』と聞く。するとラムズウェルズドはまともに答える事なく一笑するのみ。チェイニーはラムズウェルズのこの姿勢に影響を受けることとなる。政治理念などないという姿勢に。いっぽう彼の妻、リン・チェイニーは上昇志向の強い女性であり、ディック・チェイニーに叱責を飛ばして「二度とがっかりさせない」事を誓わせる。この時からチェイニーの政治家としての邁進が始まる訳だから罪深い妻である。‬

‪といっても、彼の娘は同性愛者であると発覚し、一旦は政界から身を引く。虚偽のエンドロールが流れてハッピーエンドをみせる。その場面はまるでチェイニーが政界に舞い戻らなければ、世界はめちゃくちゃにならずに済んだ、とでも言いたげだ。しかし彼は戻ってきた。主にバカ息子ジョージ・w・ブッシュ大統領のせいで。‬

‪2000年某日、ブッシュは事もあろうにチェイニーへ副大統領候補の要請を出した。しかしなにかと勿体ぶってすぐに引き受けないチェイニー。これには裏があった。自分が確実に権力を掌握するための作戦なのだ。その謀略にまんまとハマったブッシュはエネルギー政策や軍事、おまけに外交政策の権限を与えてしまう。そうしてチェイニーは権力の座につき、9.11のテロに乗じてイラク戦争へと突入していく。そのイラク戦争では、イラク市民の怯える姿が描写されていて、この問題がアメリカのみにとどまらない事を示唆する。戦争の結果、数十万人におよぶ死とイラクイスラム国家台頭を許してしまった。‬

‪映画のラスト、彼は画面をみつめながらこう語る「私は謝らない(中略)選挙で選ばれて、国民に仕えて、望まれたことをやってきた」。自分自身の行為に後悔など感じていないし、また国民の声に答えたまでだというわけである。つまり本当の黒幕はチェイニーではなく、チェイニーを選んでしまった(あるいは台頭を許してしまった)国民だ、というメッセージなのかもしれない。(無能)‬